クロスボーダーM&Aとは国境間をまたぐM&Aをさします。 クロスボーダーM&Aは近年急激に増加して来ています。
クロスボーダーM&Aには日本企業が海外企業を買収するIn-out(インアウト) また、海外企業が日本企業を買収する(Out-In)(アウトイン)などがあります。
各国は法律も文化も異なるため、M&Aのルールや慣習が異なりますので、クロスボーダーM&Aの実行には高い専門ノウハウが必要なります。
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M&Aとは?
クロスボーダーM&Aとは
海外資本による日本企業に対する救済型M&A
バブル崩壊後、救済型M&Aといわれる投資ファンドのM&A(買収)活動が活発でした。
- 投資ファンドとは
- 不特定の投資家から資金を集めて業績不振の会社等に投資し、企業を改革して、数年後に第三者に高く売却したり、上場したりして差益を得ようとするものです。 主に以下のような種類があります。
プライベートエクイティファンド | 主に未上場株式に投資し株式価値を高め、キャピタルゲインを獲得することを目指すファンドです。 |
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ベンチャーファンド | その中でもベンチャー企業に投資するファンドです。ベンチャーファンドの場合は、経営権をとらない出資をするファンドが多いです。 |
バイアウトファンド | その中でも成熟企業に投資するファンドです。経営権をもって経営をしていくことが多いです。 |
企業再生ファンド | 経営破綻した企業を買収し企業を再生させ利益を得るものです。倒産した事業やその不動産を格安で買収し、短期間で転売することが多かったために、ハゲタカファンドと呼ばれたファンドもありました。 |
2015年6月現在も、投資対象として、投資会社によるM&Aは引き続き増えています。
グローバル企業を目指した日本企業の積極的なM&A(買収)戦略
最近は、日本企業による外国企業のクロスボーダーM&A(買収)が再び活発化してきています。グローバル競争に勝ち抜くため、グローバル企業への名乗りをあげるための成長戦略としてのM&Aです。
M&Aスキーム | 英国法に基づくスキーム・オブ・アレンジメント(友好的) |
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買収価格 | 2兆2530億円 |
M&A時期 | 2006/12/1 |
買収目的 |
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スキーム | 既に約20%保有していたが、英国のTOB制度(公開買い付け制度)で全株式を現金で取得し、完全子会社化 英国法に基づくスキーム・オブ・アレンジメント(友好的) |
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価格 | 3900億円 |
時期 | |
買収目的 |
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クロスボーダーM&A(日本企業による海外企業買収)の現場
クロスボーダーM&Aは、法制度、言葉の壁、会計基準の違いなど、特にインアウト型の場合は、難易度の高いM&A取引となります。
- 1. クロスボーダーM&A検討フェーズ
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クロスボーダーM&Aの検討は、キャピタル・エヴォルヴァ―のようなM&Aアドバイザー業務を行っている会社に、現地専門家のアレンジメントと取りまとめを依頼し、アドバイザリーチームを作ることをおすすめします。
対象会社の所在地国の弁護士が現地法の調査を行い、会計士が財務調査を行い、全体の取りまとめをM&Aアドバイザーが行います。
まずはクロスボーダーM&Aは現地に信頼できる専門家を見つけなければなりませんが、子会社が各国に有するようなグローバル企業をM&A(買収)する場合は、各国の法律事務所、会計事務所とネットワークがある法律・会計事務所と、それらをうまくコントロールする能力があるM&Aアドバイザー会社に依頼する必要があります。
ただ、そのような法律・会計事務所は報酬体系も高いので、ポイントを絞って以来しないと膨大なページ数の報告書が出来上がって、多額の報酬を請求されますので、M&Aアドバイザーにお願いして、範囲、期間、費用などについて、しっかりと事前打ち合わせをしてもらってください。そして、M&A(買収)後の統合・融合がうまくいくかどうかなどを見極める必要がありますので、これらの意思決定を迅速かつ的確に行うために、社内でM&Aや業界やビジネスの知識、経験のあるものを集めたM&Aプロジェクトチームをつくります。
M&A交渉チームに最終決定者が入ると迅速なM&A交渉ができますが、その場で押し切られてしまうリスクも出てきます。英語力のある適任者がいれば望ましいですが、通訳を入れることでゆっくり考えながらM&A交渉できるというメリットもあります。現地では資料の調査だけではなく、関係者のインタビューも行われます。
買い手の担当者や弁護士が現地に長期間滞在して資料を見て、インタビューをすることは、時間的にもコスト的にも難しい場合は、オンライン上に当該M&Aのために機密情報をあげてもらい、オンライン上のバーチャルなデータルームで、その中にある資料にアクセスしたり、メールで質問と回答を繰り返す形で行うこともあります。
ただし、最後の詰めは直接会って交渉し、M&Aの契約前にお互いの理解がずれていないか、確認しながら行うことも必要です。
メールではお互い譲歩できなかった場合は、一度会うことでM&A交渉がスムーズに進むようになるということもあります。対象会社を把握することが難しいところに、クロスボーダーM&Aの大きなリスクがあります。
- 2. クロスボーダーM&A契約フェーズ
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英文のM&A契約書が作成されることが殆どです。準拠法は対象会社所在地国の法律にするのが一般的です。
ただし、国によってリスクが高いこともありますので、第3国の法律にしたり、第3者機関を利用することもあります。株式譲渡契約や事業譲渡契約などは、欧米と日本で作成されている契約とは似ていますが、上場会社をM&A(買収)する場合の公開買い付け(TOB)や敵対的買収に対する考え方は日本と欧米諸国は大きく異なります。また、米国と英国とでも大きく異なります。
また、EU諸国のM&Aを検討する場合は、EUの規制と各国の国内法の規制と2重構造に留意する必要があります。特に大型M&A(買収)の場合は、競争法関係のEUの規制をよく調べる必要があります。また、英国ではTOBによる買収と事業譲渡しか存在しません。法人格が1つになるという発想がありません。米国では、会社法については州法レベルで規律されていますが、証券取引法や独占禁止法などについては連邦法レベルで規律されています。
- 3. クロスボーダーM&A実行後のフェーズ
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クロスボーダーM&Aの難点ですが、企業文化の融合が難しいです。合併方法1つをとっても、日本は対等合併を好みますが、欧米ではどちが買収するかを明確にする方が好まれます。買収された場合、欧米のドライなやり方に、従業員が反発することも考えられます。
組織の統合だけではなく、取引先・顧客との契約の統合、人事・労務の統合、知的財産の統合、システムの統合、会計制度の統合など、クロスボーダーM&Aはとても手間がかかります。
従来、クロスボーダーM&Aによって、企業価値が上がったとみられるケースが意外に少なかったのは、クロスボーダーM&A実行後の融合(ポストマージャー)がうまくいかないからだと言われています。
クロスボーダーM&A実行後、買収会社(親会社)の論理やシステムを無理やり導入しようとして、現地化が疎かになり、優秀な人材がやめてしまう、従業員の士気が低下するなどという事態がおきてきます。相手方の文化の違いを理解しながら、それぞれをスムーズに統合させていくことがクロスボーダーM&A統合の鍵です。そのためには、クロスボーダーM&Aプロセスの初期段階から統合のプランニングを開始し、クロスボーダーM&A後の統合という観点で買収検討をすすめていく事をおすすめします。
クロスボーダーM&A実行後の人事構想が決まったら、検討初期段階で、クロスボーダーM&A実行後の組織図を作成することがよいです。海外でのクロスボーダーM&A(買収)実行の際、考慮すべきことは、日本からの駐在員をどのような地位で送り込むか、赴任時期はどうするかなどの点です。
あまりにも大量の日本人が同時期に赴任することは避けた方がよいでしょう。また、買収により新組織ができあがった後は、駐在員となる従業員のビザ取得の準備も始めなければなりません。
クロスボーダーM&A(買収)にあたり持株会社を設立する場合や、資産買収のために受け皿会社を設立する場合には、時間がかかる場合が多いので、少しでも早く手続きを開始する必要があります。買収初年度の予算の作成も早めに行うことが望ましいです。
この作業はクロスボーダーM&A(買収)クロージング前に、買い手側であらかじめ行っておき、クロスボーダーM&A実行後に被買収会社の経営陣と共同で調整し、最終的なものにします。その際に考慮することは、買い手側の国の基準に合わせた開始貸借対照表の作成です。開始貸借対照表はその後の決算に大きく影響することを認識して作成してください。
クロスボーダーM&Aの固有の特徴
基本合意書の違約金条項
違約金(ブレイクアップフィー)を定めて、より有利な条件の交渉相手が現れたら違約金を払って次の交渉を始めるという事も多く、特にクロスボーダーM&Aでは大切な契約条項になります。
インサイダー取引
上場会社におけるクロスボーダーM&A取引では、国によって慣習や物の考え方が違い、各国の証券取引法における開示の基準も異なるので、そのクロスボーダーM&A取引がインサイダー取引と判断されるか、そうでないかのグレーゾーンを巡っての揉め事が多くなります。
そういったリスクを回避するためには、そのクロスボーダーM&A取引の情報を対象会社に公表してもらった上、取引価格を決め、M&A(買収)を行うしかありません。
デューディリジェンス
クロスボーダーM&Aは、制度面の説明や書類・インタビュー結果の翻訳などの必要性、また各国にグループ会社がある場合はその出張費などもかかるので、国内と同様の調査を行えば、時間も費用も最低でも1.5~2倍程度はかかります。
エスクロー・エージェントを使う取引
日本のように性善説に基づいてビジネスを行う国ばかりではありません。
特にクロスボーダーM&Aでは、表明保障違反などがあった場合でも、一旦支払った対価を補償条項に則って回収するのは容易ではないために、一定の期間、譲渡対価の一部の支払いを留保して、違反がないことが確認してから留保とした金額を支払う仕組みを使うこともあります。
エスクロー・エージェントなどが、対価の1部を預託して、半年後や1年後、問題がないとはっきりした時点で初めて、売り手に託したお金を渡し、問題があれば買い手に戻します。
また、売り手に対する買収後のコンサルタント料や繰り延べ支払の買収価格も、一種のエスクローの働きをしますので、クロスボーダーM&Aの際は利用を検討してください。
カントリーリスク / 為替リスク
クロスボーダーM&Aは、相手国の政治、経済、社会の情勢の変化により、外貨債務の返済や投融資の回収が困難になることがあります。特に共産主義国の国の場合は、政府の一声で会社を没収されてしまうということもあるので、クロスボーダーM&Aでは、そのリスクを考えた決断が必要です。
また外貨送金が停止されてしまえば、売買代金、貸付債権、配当金などの支払いが受けられないことになってしまいます。
また、国によっては天災地変や労働者のストライクも大きなリスクになることがあります。もちろんのことながら、通貨が異なりますので、為替リスクが発生します。
労働問題への対応
外資アレルギーが原因で、労働組合の反対などでクロスボーダーM&Aがうまくいかないことがあります。また欧米の企業が日本の企業を買収して思い切ったリストラを行おうとしても、日本の解雇に厳しい労働法制で、以下の4要件を満たさないと整理解雇を行えないなどの問題があります。
1)人員整理の必要性
2)解雇回避努力
3)被解雇者選定の妥当性
4)手続きの妥当性
欧米の企業と違い、日本では雇用と処遇が優先されます。これらがあるために、クロスボーダーM&Aのデューディリジェンス(調査)で問題が発見され、M&A取引が挫折するということがあります。
知的財産
日本では先に出願した方が特許権で保護される方式ですが、米国は先発明主義です。いくら特許出願していても、他人が先に発明したことを後から証明されれば、突然、特許権が覆されてしまうことがあります。
また、日本では厳しく審査した上で特許の登録がなされますが、登録は簡単にできて、その後、無効審判等の手続きで争うシステムになっている国もあります。そういうことを知らないと隠れたリスクを査定しないまま買収することになりますので、クロスボーダーM&Aでは、デューディリジェンスの際、現在の専門家からよく説明を受け、クレームなどの調査をするなどすることが必要です。あ
大きな訴訟リスク
米国のように懲罰的賠償が認められやすい国では、損害賠償も法外なものになります。クロスボーダーM&Aでは大切な契約条項になります。訴訟リスクは、すでに把握できているものについては、専門家に損害額の算定を依頼し、買収対価に反映させるか、契約書や保険でできる限りカバーするなどして対応することが求められます。潜在的なリスクについては、過去の紛争事案を分析したり、契約書や議事録を詳細に検討して見つけていく事が必要です。
大きな環境リスク
国によって環境基準もかなり異なります。厳しい国ではあとから土壌汚染等がみつかることで、数億円もの賠償金を支払うことにもなります。欧米では、環境保護団体が企業に対して積極的に訴訟を提起しており、その防衛費用もかさみます。工場のあるような会社を買収する場合は、環境デューディリジェンスなども行うとよいです。環境デューディリジェンスは調査に時間がかかりますので、なるべく早い時点で調査を始めるべきです。
クロスボーダーM&Aでよく使われる特殊スキーム
LBO(レバレッジバイアウト)
海外の大型M&Aでよく使われるスキームです。買い手の自己資金に加えて、その大部分を対象会社の資産価値や将来のキャッシュフローを担保にして、銀行借り入れや負債性証券等のデット(DEBT)により、資金を調達する買収手法をいいます。
少ない自己資金で大型の買収を投資効率よく行うことができるというメリットがあるものの、対象会社の業績が悪化した場合は、借入を予定どおり返済できずに、債務不履行に陥るリスクもあります。債務不履行をさけるためには、対象会社の資産の売却や人員整理等が行われることもります。
三角合併
また、2007年5月の三角合併の解禁にともなって、合併等対価が柔軟化し、クロスボーダーM&Aが少し行いやすくなりました。日本企業と外国企業が直接合併や株式交換を行うことは、理論的にも実務的にも難しい問題がありましたが、外国企業が日本に子会社を作って親会社の株式を取得し、その株式を対象会社(消滅会社)の株主に交付するという三角合併の手法がクロスボーダーM&Aの場合の法制度の違いを超える手法として認められることになりました。
企業の経営資源の選択と集中を行うために、不採算部門や本業ではない部門を売却したいという場合も、海外企業も売却先として候補にあがると、より良い相手に売却できる可能性が高まります。
ただし、多数の株主が、現金ではなく、親会社の株主でもいいと了承してくれることを前提としていますので、簡単に三角合併が成立するということはありません。日本の株主であっても魅力に感じられるほどの外国株でなければいけません。
また、単純な三角合併によるクロスボーダーM&Aの場合、許認可等の問題が出てくるため、三角株式交換と逆さ合併を組み合わせるスキームなどもあります。