M&Aの手法

合併の法務、手続き

吸収合併手続きの流れ

  • 90%以上の議決権を有する会社(特別支配会社)間の合併の場合(略式吸収合併)あるいは存続会社と消滅会社の純資産規模に格差が ある場合(簡易吸収合併)は総会を省略できます。
    ただし、簡易吸収合併の場合、承継純資産額が債務超過等であるときは、省略できません。(以下の株主総会承認の要否のフローチャート参照)
  • 債権者保護手続きは、官報公告および格別に催告しなければなりませんが、官報以外に定款の定めによる日刊新聞紙または電子公告によった場合は催告を要しません。

吸収合併の株主総会承認要否のフローチャート

※公開会社:その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社

新設合併手続きの流れ

  • 株主総会の承認が必要であり、省略はできない。
  • 債権者保護手続きは、官報公告および格別に催告しなければならないが、官報以外に定款の定めによる日刊新聞紙または電子公告によった場合は催告を要しない。
事前開示事項の本店備置

事前備置書類の備置開始期間は、以下のいずれか早い日から始まります。
(1) 株主総会の2週間前
(2) 反対株主に対する通知の日または公告の日のいずれか早い日
(3) 債権者異議手続きにおける公告・催告の日いずれか早い日
(4) 新株予約権の買取請求に規定による通知の日または公告の日のいずれか早い日
債権者異議手続きが不要で、かつ反対株主がいない場合、全員出席総会をすれば、スケジュールを短縮できる可能性もあります。

独占禁止法による規制

一定の取引分野における競争を実質的に制限する事となる場合および不正な取引方法によるものである場合には、合併をすることができません。(独禁法15①)
そのような合併を未然に防止する手続きとして、合併当時会社は合併に際して、公正取引委員会に対して、計画届出書を提出し審査をあおぐことになりますが、一定の条件を満たせばこれが免除されます。まずは事前相談をしてください。

1. 合併の届出要件

合併をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高の合計額(以下「国内売上高合計額(注1)」といいます。)が200億円を超え、かつ、他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合(注2)に事前の届出が必要となります。

  • (注1) 「国内売上高合計額」とは、会社の属する企業結合集団(注3)に属する会社等の国内売上高をそれぞれ合計したものをいいます。
    なお、届出会社の国内売上高が存在しない場合であっても、要件を満たし、届出が必要となる場合があります。
  • (注2)合併当事会社が3社以上ある場合であって、当事会社の中に「国内売上高合計額200億円超の会社」が最低1社と「国内売上高合計額50億円超の会社」が最低1社ある場合は、他の会社が国内売上高合計額50億円以下の会社であっても,合併当事会社全社による届出が必要となります。
  • (注3)「企業結合集団」とは、会社及び当該会社の子会社(注4)並びに当該会社の最終親会社(親会社(注5)であって他の会社の子会社でないものをいいます。)及び当該最終親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社を除きます。)から成る集団をいいます。
    ただし、当該会社に親会社がない場合には、当該会社が最終親会社となりますので、当該会社とその子会社から成る集団が企業結合集団となります。
  • (注4)「子会社」とは、会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等をいいます。
  • (注5)「親会社」とは、会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社をいいます。
2. 同一の企業結合集団に属する会社間の合併

すべての合併会社が同一の企業結合集団に属する場合は届出が不要です。

3. 届出書の提出日

合併は届出書が受理されてから30日間は行うことができないので、遅くとも合併予定日から40〜50日くらい前に正式届出を行う必要があります。公正取引委員会が必要があると認める場合には、届出書の受理日から30日間の合併禁止期間を短縮することができます。
合併当事会社から合併禁止期間の短縮の申し出があった場合、公正取引委員会は以下の2つの条件を満たす時に、合併禁止期間を短縮する。
・当該事案が独占禁止法上、問題がないことが明らかな場合
・合併禁止期間を短縮することについて、届出会社が書面で申し出た場合

4. 完了報告

合併が完了した時は合併完了報告書を速やかに提出してください。

金融商品取引法による規制
1. 開示規制

合併により、被合併法人の株主に合併法人の有価証券が交付される場合で、被合併法人が開示会社で、かつ、被合併法人の株主に交付される有価証券について開示が行われていないときは、以下の通り、その合併法人に開示義務が課せられます。また、有価証券報告書を提出している会社が一定規模の合併を行う場合、事前に臨時報告書を提出し、ディスクローズを行うことが求められています。

消滅会社の株券等に関して、開示が行われている場合、あるいは、合併交付有価証券に関して開示が行われていない場合に、「特定組織再編成発行(交付)手続き(※)」の発行(売出)価額が1億円以上の場合、有価証券届出書を提出しなければなりません。

発行(売出)価額が1千万円超1億円未満の場合の「特定組織再編成発行(交付)手続き(※)」の場合は、有価証券通知書の提出となり、1千万円未満の場合および「特定組織再編成発行(交付)手続き(※)」に該当しない場合は、提出義務はありません。

  • (※)特定組織再編成発行(交付)手続きは、組織再編成発行手続き(合併により新たに有価証券が発行される合併に係る事前備置書類の備置きをいう)のうち、次の(1)または(2)に該当する場合のことを言います。
    • (1)新たに発行される有価証券が第1項有価証券(金商法第2条第1項各号に化が得る有価証をいう)である場合で、吸収または新設合併消滅会社の株主等が50名以上であるとき。
      ただし、以下の場合は除く
      ・吸収又は新設合併消滅会社の株主等が適格機関投資家のみであって、「プロ私募」の要件を満たす場合
      ・吸収または新設合併消滅会社の株主等が49名以下であって、「少人数私募」の要件を満たす場合
    • (2)新たに発行される有価証券が第2項有価証券(金商法第2条第2項各号に掲げる権利をいう)である場合で、その株主等が500名以上である時。

既に有価証券報告書を提出している会社は、以下のような合併が行われる事が期間決定された場合には、臨時報告書を提出しなければなりません。

  • (1)有価証券報告書提出会社の資産の額が、最近事業年度末日における純資産額の100分の10以上増加することが見込まれる吸収合併
  • (2)有価証券報告書提出会社の売上高が、最近事業年度の売上高の100分の3以上増加することが見込まれる吸収合併
  • (3)提出会社が消滅することとなる吸収合併
  • (4)新設合併
  • (5)連結会社の資産の額が、最近連結会計年度末における連結純資産の100分の30以上減少し、もしくは増加することが見込まれる連結子会社の吸収合併または新設合併
  • (6)連結会社の売上高が、最近連結会計年度の売上高の100分の10以上減少し、もしくは増加することが見込まれる連結子会社の吸収合併または新設合併

開示規制によるものではないですが、有価証券報告提出義務のない会社でも、合併によって1億円以上の株式を発行する時には、有価証券報告書を提出しなければなりません。(金商法4⑥、企業内容等の開示に関する内閣府例4)

2. 内部者取引規制(インサイダー取引規制)

上場会社の業務執行を決定する機関が、合併を行うことについて、決定した場合は、その合併の規模が軽微基準に該当しない限り(金商法166②)、当該会社(その親会社を含む)の役員や従業員、大株主、会社関係者でなくなった後1年以内の者、また、それらの家族が、職務等に関してこの重要事実を知って、その公表前に当該会社の株式を売買すると、インサイダー取引となり、刑罰の対象となります。
ただし、別途定められた軽微基準に該当した場合のみ、重要事実には該当しません。インサイダー取引規制に抵触しないためには、合併に係る事実を公表するまでの間、情報管理が重要であり、情報が漏洩しないような措置をとっておかなければなりません。
合併に関する重要事実を公表できる段階になったら、できるだけ早く公表措置をとって、インサイダー取引規制の適用を解除することが必要です。

事業法による規制

銀行・運送業など、その事業の性質上、監督官庁の行政指導を受ける業種の会社の合併については、その主務大臣の許可を要し、その許可がなければ効力が生じません。

  • 銀行業
  • ガス事業
  • 電気事業
  • 道路運送業
  • その他

また、倉庫業(倉庫業法17②③)、電気通信事業(電気通信事業法17)などは、分割後、監督官庁に届出が必要になります。
合併準備の早い段階で官庁へ事前相談をすることが必要です。

反対株主の買取請求(株主への通知・公告)
1. 買取請求

合併について反対する株主は、自己の有する株式を公正な価格で買取ることを請求できます。(株式買取請求)
ただし、吸収合併消滅会社が種類株式発行会社ではない場合において、合併の対価の全部または一部が持分等であるとき、吸収合併契約について吸収合併消滅会社の総株主の同意を得なければならない場合は除きます。

ただし、以下の株主に限られます。

  • (a)合併承認のための株主総会に先立って(効力発生日の20日前まで公告又は通知を行ったの日から効力発生日の前日までの間に)会社に対し書面をもって当該合併に反対する意思を通知し(株式買取請求に関わる株式の数を記載して、株式の買取を求める旨記載)

かつ

  • (b)株主総会においてこれに反対した株主

ただし、書面投票制度が採用された場合には、期限内(総会の前日)に到達したものについては、書面の記載に従って、議決権を行使したものとして取り扱われるので、現実の出席は不要です。また、株主総会の決議が不要な場合は、全ての株主が対象となります。

または

当該株主総会において議決権を行使することができない株主
(なお、当該株主は反対の意思の通知を要求しても、合併を阻止するなどの効力が生じるわけではないので、会社に対して反対の意思を表示する必要はないとされています。)

買取請求は、通知・公告後、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数を明らかにして行わなければなりません。株式買取請求は株主の意思表示が会社に到達したときに、会社との間で売買契約が成立しますので、会社の承諾は不要です。
買取価格は、まず株主と会社との間で協議し、価格が決定されれば、会社は決議の日から60日以内に支払いをしなければなりません。決議の日から60日以内に価格が決まらない場合は、株主または事業譲渡する会社は、その期間経過後30日以内に、裁判所に対し、価格決定の申し立てをすることができます。会社が買取代金を支払ったときは、当該株式は会社に移転します。

2. 失効・撤回

株主総会決議が取り消されたり、合併が中止されたりした場合、両者が撤回を合意した場合には、買取請求は失効します。また、裁判所に価格決定の申し立てを期限内にしなかった場合も、株式買取請求を撤回することができます。

債権者保護手続き(債権者異議申述・公告)

会社が合併をなすには債権者保護手続きをとる必要があります。債権者は当該合併に対して異議を述べる事ができ、会社は下記の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には、原則として、各別に催告しなければなりません。

  1. 吸収合併(新設合併)をする旨
  2. 吸収合併(新設合併)消滅会社の商号および住所
  3. 吸収合併(新設合併)存続会社および吸収合併(新設合併)消滅会社の計算書類に関する事項
  4. 債権者が一定の期間内に異議を述べる事ができる旨(ただし、この期間は1ヶ月を下る事はできない)

会社がこの公告について、官報の他、定款における定めに従い、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載することにより行う、もしくは電子公告の方法により行う時には、知れている債権者に対する各別の催告は不要とされています。(会社法789③)
ただし例外があります。(会社法799③、810③)

ここでいう「知れている債権者」とは、債権者が何人であるか、債権がいかなる原因に基づくいかなる請求権であるかの大体が会社に知られている債権者のことをいいます。また、その債権の存在について、訴訟の係争中であっても、その者が当然にしれている債権者でなくなるとは言えません。逆に、たとえ債権が客観的には存在していても、その債権の存在が実際上会社に知られていない限り、会社にとっては知れている債権者とはなりません。
異議を述べた債権者には、その債権を弁済するか、相当の担保を提供するか、あるいは債権者に弁済を受けさせる事を目的として、信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません。ただし、当該合併をしても、当該債権者を害する恐れが無いときには、その必要はありません。

その他合併手続きの注意事項

従業員の引き継ぎ

合併では、労働者の労働契約および労働協約は、労働者の同意の有無にかかわらず、全て包括的に存続会社・新設会社に承継されます。いつの時点で労働組合に対して合併問題を伝えるかが重要な問題になります。労働組合に対する説明時期が遅れすぎると労働組合からの強烈な反発が生じ、その結果として合併が頓挫する危険もあります。また、労働組合へ伝えるタイミングが早すぎると、合併問題が関係者以外の者に漏れてしまい、その結果として合併が頓挫するかもしれません。インサイダー取引の危険もあります。
慎重にタイミングを見極め、また、労使交渉の期間も十分に考えた合併のスケジューリングをする必要があります。

合併により労働条件の変更

合併は包括承継であり、労働条件を統一するために、不利益変更をする場合は、不利益変更に関する合理性が必要です。労働組合や労働者個人から変更についての同意を得るか、または不利益変更に関する労働法上の判例法に従う必要があります。労働組合や労働者個人から変更についての同意を得るか、または不利益変更に関する労働法上の判例法に従う必要があります。合併後は、すみやかに人心の統一をはかる必要がありますので、スピーディな対処が求められます。その際には、不利益変更の合理性について、労働組合や労働者個人に十分な説明を行うことがポイントになります。 

※本ページは2015年1月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。
また、概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。