M&Aの手法

TOB

株の取得手法

株を取得する時は主に2つの方法があります。市場内での買い付け方法と市場外での買い付け方法です。

市場内での取得 市場内で会社の株式を買い進めるのは手続きは簡単ですが、市場に出回っている株式でないと買い付ける事ができませんので、その株数は限定されることとなり、買収に必要な株数は確保できないこともあります。また株価は常に動くので、最終的な買収金額を確定させることができません。
市場外での取得 では、市場外で、株式市場を通さずに株式を取得する方法には、TOB(公開買付)による取得相対取引による取得の方法があります。 ただし、公開会社など、有価証券報告書提出会社を買収するには、一定の条件に当てはまる場合は、『強制公開買付制度』により、TOB(公開買付)でなければなりませんので、相対取引は利用できません。
TOBとは?

TOBとはTake Over Bitの略で、公開買付のことです。

  • 不特定かつ多数の者に対し
  • 公告によりその買い付け内容を宣言し、株券等の買付等の申込み、又は、売付け等の申込みの勧誘を行い、
  • 証券取引所を通さず、有価証券市場外で株券等の買付け等を行なうことをいいます。

TOBには、友好的なものと敵対的なものがありますが、日本ではほとんどが友好的なものです。

なぜTOBを行うの?

一定の株価で大量の株式を取得するためです。TOBでは、通常TOBプレミアムというものをつけて、市場より高い株価を株主に対して買取価格として提示するので、大量の申込が見込まれます。TOBを利用すると、一定の株価で株を取得することができる上、その条件での申込株数が予定数まで達しなかった場合はTOBの取り消しが可能になりますので、リスクも抑えられます。
また、TOBのルールは以下のために作られているものと思われます。

  1. 一定の株券等を多数の人から取得しようとする者がいる場合に、当該株券等の全ての所有者に同一条件で売る機会を提供するため。(取得勧誘)
  2. 当該取得勧誘に応じるか否かの判断のために、必要な情報を確保するため。(5%ルール)
  3. 一部の株主のみが支配権プレミアムを独占的に享受することを防止するため。
  4. 特定の株主が支配権を握った後の会社において、少数株主が不安定な地位に置かれることを防止すること。(2/3ルール)
  5. 企業買収者間の公平を確保するため。
大量に株式を取得してどうするの?

買収を行います。

友好的TOB、敵対的TOBとは?

株式を取得する対象企業がTOBによる買収に合意してくれた場合には友好的TOBとなります。合意も得ず、一方的にTOBを使って買収を押し進め大量保有を目指す場合は敵対的TOBとなります。敵対的TOBを仕掛けられないように、企業は買収防衛策を講じている事が多いです。買収防衛策は、新株や新株予約権の新規発行等が行われますが、さらに当該手続きに対して、公開買付け者側がそれを差し止めるための法的措置を提起することもあるため、その場合は、公開買付の手続きだけではなく、会社法や金融商品取引法(発行開示)、金融商品取引所の規則上の手続きが同時並行で進行する可能性について留意してください。

TOBの実務

どんな時にTOBの必要があるのか
1. 主体(誰が)
誰が株券を買うときにTOBが必要か

主体については制限はありません。ただし以下の2つのパターンに分けられて規制がつくられています。

  • 発行会社が自己株式についてTOBを利用する「発行者」が主体になるのパターン。(金融商品取引法27条の22の2第1項)
  • 当該発行者以外の者が主体になるパターン。(金融商品取引法27条の2、第1項)

以下には発行者以外の者が主体になるパターンのルールを記載いたします。

2. 客体(何を)
どんな会社の株券を買う時にTOBが必要か

株券等について有価証券報告書の提出義務を負う者および特定取引所金融商品市場(いわゆるプロ向け市場)に上場されている「株券等」の発行会社
当該TOBの対象である有価証券自体が金融商品取引所に上場されているか否かは「株券等」への該当性に関係ありません。
上場廃止となった会社の株式であっても、有価証券報告書提出義務が消滅するか、金商法24条1項の但し書きの規定により免除されない限り、TOBの対象となりえます。

3. 客体(何を)
どんな種類の株を買う時にTOBが必要か(「株券」とは何が含まれるか?)

株券、新株予約券証券、新株予約券付社債権、外国法人の発行する証券または証書でこれらの性質を有するもの、投資証券ならびに有価証券信託受益証券、預託証券。株券発行会社ではない会社の株式であっても、TOBの対象となります。カバード・ワラントは対象外です。
議決権のない以下の株券はTOBの対象から除外されています。(施行例6条1項、他社株買付府令2条)

  1. (1)議決権のない株式であって、議決権のある他の種類の株式に転換することができないものに係る株券
  2. (2)新株予約権又は新株予約権付社債券のうち(1)に掲げる株式のみを取得する権利を付与されているもの
  3. (3)外国法人の発行する証券または証書で(1)および(2)に掲げる有価証券の性質を有するもの
  4. (4)株券等信託受益証券で受託有価証券が(1)~(3)に掲げる有価証券であるもの
  5. (5)株券等預託証券で(1)~(3)に掲げる有価証券に係る権利を表示するもの
4. 行為1(どうした時)
どんな取得方法をする時にTOBが必要か(どんな取得方法が「買付等」にあたるか)

売買の他、代物弁済や交換等の有償取得行為のように有価証券の所有権が移転する取引に加え、買い主としての予約完結権を取得する売買の一方の予約(施行令6条3項1号)や、株券等の売買に係るオプションの取得(施行令6条3項2号)他社株転換社債権の取得(施行令6条3項3号、他者株買付令2条の2)が「買付け等」に含まれます。
カバード・ワラントの場合は、現金決済ではなく有価証券の現物決済が可能なものだと、そこに表章されたオプションも取得することになるので、TOBの対象となります。予約完結権やコールオプションの行使による株券等の取得も「買付け等」に該当し得ます。
また、株主に対してプットオプション与える契約を結ぶことは、原則として該当しませんが、相手方が当該プットプションを行使した際の取得行為は「買付け等」に該当するため、そのような契約を締結する際には、オプション行使時のTOBについて注意を要します。新規に発行される株式等の取得にTOBが強制されないことには争いはありません。(ただし急速な買付けの適用においては取得数の計算に含まれ得ます)
これに対し、既に発行されている自己株式の処分による取得は「買付け等」に該当すると解されています。(パブリックコメント回答NO.3) 対象会社の株主との応募契約については、「買付け等」には該当しないと考えてよいでしょう。取得者側の意思表示が介在しない取引であっても「買い付け等」に該当し得ます。
合併、株式交換および会社分割、事業譲渡等、組織再編による取得は、TOB規制の対象外とされています。ただし、合併等に伴う新株の取得については、通常の新株発行と同様に、「新規発行取得」として急速な買付け等の規制に服する可能性があるので注意が必要です。
全部取得条付種類株式の対価としての取得の場合は、TOB規制の対象となる可能性がありますが、いわゆるスクイーズアウトの方法として行われる場合には、通常TOB規制の対象となりません。また全部取得条付種類株式の取得の対価として交付する端数株式の処理のための端数株式の合計数に相当する株の株式の売却は、TOB規制の対象外となります。株券等の間接的な取得はTOB規制の対象となる可能性があります。

5. 行為2(どうした時)
どのくらいの数の株数を買うとTOBの必要があるのか?(TOB規制の適用事由)

株券等所有割合については、5%1/350%2/3という割合が規制の分岐点となっています。
こちらは、ToSNeT取引等を含む、相対取引に対する規制です。

  • PTS(私的取引システム)による取引は、一定の要件を満たした場合、上場有価証券の買付け等について、5%基準の適用は除外可、また、過去60日間における買付け等の相手方の人数にも含めないこととされました。
  • ToSTNeT取引(立会時間外取引として東京証券取引所が提供する取引制度)の場合は5%基準の適用はうけません。ただし、11名以上の相手方と事実上ToSTNeT等を利用して売買を実行することを合意の上、ToSTNeTを利用するような行為は、合意自体が買付け等に該当し5%基準に抵触すると判断される可能性があります。
買付け後の所有割合(※1) 買付け前の所有割合 その他条件 TOBの必要・不要 備考
5%まで TOB不要
5%超〜1/3まで 61日間に10人以内から取得する場(「特定買付け等(※2)」) TOB不要
5%超〜1/3まで 61日間に10人超から取得する場合 TOB 5%基準
1/3超 TOB 1/3ルール
2/3未満 50%超(※3) 61日間に10人以内から取得する場(「特定買付け等(※2)」) TOB不要
2/3未満 50%超(※3) 61日間に10人超から 取得する場合 TOB
2/3以上 TOB 2/3ルール(当該発行者の全ての種類の株券等の所有者に対して勧誘を行う義務および応募のあった株券等をすべて決済する義務が課される)
  • ※1:場合によっては、SPC等による間接取得も所有割合に含む必要があります。
  • ※2:TOBを行う日前60日間に行われた買付け等の相手方の人数の計算の際には、以下の方法による買付け等の相手方の人数は除外されます。
    ①TOBによる買付け等
    ②新株予約券を行使することにより行う買付け等
    ③令6条の2第1項1号~3号および10号~15号に掲げる買付け等
    また、形式的特別関係者(関係が1年間継続している者に限る)については、計算の対象となる相手方には含まれません。
  • ※3:1年以上形式的特別関係者であった者の割合のみを合算

また、「急速な買付け」と判断される場合もTOBが必要です。
以下の場合は急速な買付けと判断されます。

  1. 3ヶ月以内に
  2. 株券等の買付け等または新規発行取得(=株券等の発行者が新たに発行する株券等の取得)により全体として10%を超える株券等の取得を行い、
  3. 当該取得の中に、市場外取引またはToSTNeT取引等におよる買付け等(TOBによるものを除く。「市場外買付け等」という。)が合計5%を超えて含まれており、
  4. 当該取得後の株券所有割合が3分の1を超えるときは
  5. かかる一連の取引全体がTOBによらなければならないこととされます。

新規発行取得は増資により発行される株券等の取得に限られず、合併、株式交換等の組織再編行為において発行される株券等の取得も含まれます。

6. TOB除外理由

以下の場合は、TOBが必要となる株券等の買付けであっても、TOB規制が適用されません。

<権利行使型>
  1. 新株予約権の行使による買付け等。ただし、コミットメント型ライツ・オファリングの場合の新株予約権については、この例外規定の適用を受けません。
  2. 株式の割当を受ける権利の行使による買付け等
  3. 取得請求権付株式の取得と引き換えに交付される株券等の買付け等
  4. 取得条項付株式または取得条項付新株予約権の取得と引き換えに当該株主に交付される株券等の買付け等
<グループ内取引型>
  1. 特別関係者(1年間継続して形式的基準による特別関係者にある者に限る)からの買付け等
  2. 兄弟会社からの特定買付け等
  3. 関係法人等全体で他の発行者の総株主の議決権の数の1/3を超える数の議決権を所有する場合における当該関係法人等からの当該他の発行者の株券等の特定買付け等
<実質的価値判断から適用除外とされている類型>
  1. 50%超の株券等所有割合を自己と特別関係者とで所有している場合における、当該株券等の発行者の発行する株券等の特定買付け等
  2. 担保権の実行による特定買付け等
  3. 事業の全部または一部の譲受による特定買付け等(譲り受ける株式が譲受対象である事業を構成するといえるかが問題となる。)
  4. 株券等の所有者が25名未満である会社の当該株券等の特定買付け等を公開買付けによらないで行う事につき、当該株券等の全ての所有者が同意している場合
<その他の適用除外事由>
  1. 株券等の売出しに応じて行う買付け等
  2. 発行者の役員持株会や従業員持株会による買付け等
  3. 投資信託の受益証券の交換による買付け等
  4. 金商法24条1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない発行者以外の発行者(特定上場有価証券または特定店頭売買有価証券である株券等の発行者を除く)が発行する株券等の買付け等
  5. 証券取引清算機関に対し株券等を引き渡す債務を負う清算参加者が、履行期限として定められる時までに、当該債務を履行しなかった場合に、業務方法書に定めることにより行う株券等の買付け等
以上の1~5の条件に該当し、6. TOB除外理由に当たらない場合は、TOB(公開買付け)が必要となります。
違反した場合には?

TOB(公開買付)が強制される取引について、所定のTOB(公開買付)の手続きが行われなかった場合は、当該買付けの実行行為を行ったものは刑事罰の対象になります。5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはそれらの併科です。さらに、平成20年12月施行の金商法改正により、買付総額の25%に相当する金額の課徴金の対象にもなりました。

特別関係者とは?
形式的基準

TOBをすべきかを判断する際の株券等所有割合の計算、TOBの適用除外や別途買付の禁止の判断でも利用する重要な概念です。以下の2つの理由があります。
買付者との間の資本関係または親族関係等の形式的基準に基づくもの

1. 買付者が個人の場合
  • 買付者の親族(配偶者および1親等以内の継続・姻族)
  • 買付者と一定の資本関係にある法人等およびその役員(取締役、会計参与、監査役、理事、監事またはこれに準ずる者)
2. 買付者が法人等の場合
  • 買付者の役員
  • 買付者が特別資本関係(※1)を有する法人等およびその役員
  • 買付者に対して特別資本関係(※1)を有する個人ならびに法人等
  • (※1)特別資本関係:ある者が他の法人等の総議決権の20%以上に係る株式または出資を自己または他人の名義をもって所有する関係
実質的基準

買付者との間の合意という実質的基準に基づくもの

  1. 共同して株券等を取得もしくは譲渡する事を合意している者
  2. 共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者
  3. 買付け等の後に相互に株券等を譲渡し、もしくは譲り受けることを合意している者
TOB(公開買付け)の流れ
(※1)友好的TOBの準備では以下のようなものが必要になります。
  公開買付者 対象会社 株主(応募者)
  金融商品取引法関係 その他
TOB1ヶ月以上前   秘密保持契約締結、TOB実施について検討、交渉、基本合意の形成
TOB約1ヶ月前 公開買付代理人の選定、 公開買付公告、公開買付届出書等の作成(証券印刷会社の手配を含む)、新聞社への広告掲載の手配(金融商品取引所・財務局への事前相談) TOB応募契約の交渉・締結(融資金融機関との交渉開始)(融資金融機関からのコミットメントレターおよび融資証明書の取得)(専門家からの価格評価の取得) 意向表明報告書の作成(証券印刷会社の手配を含む)(専門家からの価格評価の取得) TOB応募契約の 交渉・締結
TOB開始日前 証券会社との間で公開買付代理人並びに事務取扱契約の締結(融資金融機関からの融資証明書の取得) 取締役会での公開買付実施の決議およびプレスリリース 取締役会の賛同表明決議およびプレスリリース
(※2)敵対的TOBの準備では以下ののようなものが必要になります。
  公開買付者 対象会社 株主(応募者)
  金融商品取引法関係 その他
TOB約1ヶ月前 公開買付代理人の選定、 公開買付公告、公開買付届出書等の作成(証券印刷会社の手配を含む)、 新聞社への広告掲載の手配(金融商品取引所・財務局への事前相談) (融資金融機関との交渉 開始)(融資金融機関からのコミットメントレターおよび融資証明書の取得)(専門家からの価格評価の取得)    
TOB開始日前 証券会社との間で公開買付代理人並びに事務取扱契約の締結(融資金融機関からの融資証明書の取得) (取締役会での公開買付 実施の決議およびプレスリリース)    

※本ページは2015年1月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。
また、概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。