M&Aの手法

新株引受の会計・税務

1. 増資の会計処理

金銭出資の場合、払込期日までに引受人から払込が行われるか、通常は失権株を早期に確定するために、新株申込の段階で新株式申込証拠金が支払われるケースが多いです。
新株式申込証拠金は、払込期日(払込期間を定めたときは、実際の払込日)に資本金(または資本金および資本準備金)に充当されます。一方、募集株式の引受人が株主となる時期は以下の通りです。(会社法209条)

  1. ①払込期日を定めた場合は、払込期日
  2. ②払込期間を定めた場合は、実際の払込日
2. 発行会社の仕訳
新株の申込時 現預金 3000 / 新株申込証拠金 3000
払込期日 新株申込証拠金 3000 / 資本金 1500 資本準備金 1500

申込期日経過後であって、払込期日が到来していない段階で決算日を迎えた場合には、受け入れた申込期日経過後の新株申込証拠金を貸借対照表の純資産の部にの株主資本に「新株式申込証拠金」といて区分して表示します。(会社計算規則108条2項2号)
また、期中の増資は、株主資本等変動計算書の記載事項になります。
株式交付費用は、支出時に営業外費用として処理します。

株主割当増資の税務

募集株式の発行を株主割当で行う場合、払込金額が特に有利な価額であっても、原則として持株割合に変動が生じないため、原則として課税関係が発生しません。株主の中に、新株の引受に応じない株主が生じたときは、持ち株割合が変動することになります。その場合でも、時価発行であれば、持ち株割合に変動は生じたとしても、株主間の利益移転も問題は生じません。持ち株割合が変動し、かつ時価よりも有利な払込金額による発行の場合に、株主間の利益移転の問題が発生するので留意が必要です。
また、株主として新株引受権を与えられた者が新株引受権を行使せず、当該株主の親族等に権利を与え、親族が新株を引き受けた場合、贈与として取り扱われます。

打切増資の場合
株主割当増資で失権株が生じた時に、その失権株を補充しないで打ち切る場合(打切増資)
失権株主以外の株主のみが新株を引き受けた事になる為、失権株主の持分の一部が新株を引き受けた株主に移転することになります。ただ、他の株主が失権したかどうかについては、新株を引き受けた株主にとっては知り得ないところであるため、課税されません。ただし、失権した株主と新株を引き受けた株主との間に特別な利害関係があり、失権したことについて合理的な理由がない場合は、受贈益として課税されることもあります。既存株主については、原則的に課税は生じません。
ただし、失権した事情が、たとえば、その失権した法人の役員等にその新株の割当を受けさせたと認められるような場合には、一度、その法人に新株引受権の価額に相当する課税所得が発生し、これを役員等に対し給与等として支給したものとしてその失権した法人に課税関係が生じる可能性があります。(有利発行)
第三者割当増資の税務
引受株主が法人の場合

特定の第三者に対し新株を割り当てる方法のため、持ち株割合に変動が生ずるので、発行価額決定に際し注意が必要になります。発行価額が時価と異なる場合には、その差額について贈与または経済的利益の供与があったものとして課税が行われます。具体的には以下のような場合、持ち株割合に変動が生じます。

  1. 既存株主以外の特定の者に新株が割当られる場合(第三者割当増資)
  2. 株主割当増資で失権株が生じた時に、その失権株を第三者に割り当てる場合(第三者割当増資)
  1. (1)時価 > 発行価額の場合(有利発行の場合)
    払込金額と時価の差額は、既存株主から引受法人に対して贈与があったものとして、引受法人において受贈益として課税されます。
  2. (2)時価 < 発行価額の場合
    法人税法上、時価より発行価額が高い場合については、企業支配株式の取得価額について定めがあります。時価より 高い金額を払い込んだとしても、その株式の取得目的がその発行法人を支配する目的であると認められる場合には、引受法人はあくまで時価でその株式を取得したものと認められます。この場合、当然に既存株式に対する受贈益課税は行われません。明らかに贈与の意思をもって行われた場合には、引受法人・既存株主の双方につき、寄付金・受贈益として課税が行われます。
引受株主が公人である場合

有利な発行価額により新株を取得した場合には、取得時の価額と払込金額の差額を総収入金額に算入します。有利な発行価額に該当するかどうかは、時価と発行価額の差額が概ね10%相当額以上かどうかにより判定を行います。会社法上、有利発行に係る手続きが必要な場合は、合理的な反証がない限り、原則として税務上の有利発行に該当するものと考えられます。

第三者割当増資の発行会社が、法人税法上の同族会社に該当する場合、既存株主の親族等に新株の割当があった時、上記の所得税課税の他、既存株主と引受株主間の贈与税の課税関係が発生する場合があります。その引受をした既存株主の親族等に対し、その既存株主から新株引受権相当額の贈与があったものとして取り扱うこととされています。

また、株主割当増資について失権株が生じて、その失権株について再募集しないまま打切りをした場合で、それが同族会社の親族間で行われた時には、引受株主に対して贈与税が課税されます。この場合、失権株主について課税は生じません。
また、逆に同族会社が増資を行う場合において、新株を引き受けた者が時価よりも高い価格で引き受けた場合は、新株を引き受けた者から既存株主に対して贈与が会った者として見なされます。
ただし、その増資を行う同族会社に会社更生法に基づく、公正計画認可の決定等の事由が生じている場合には、その会社の債務超過相当額については、この規定の適用を受けません。

法人税法上の時価

通達に示された算定方法よりも、その会社の個別事情を考慮したより合理的評価が可能である場合には、あえて、そのような合理的評価を用いることが適当な場合もあります。そのような場合には、専門家等の第三者により「株式鑑定評価書」を入手してください。キャピタル・エヴォルヴァーでも鑑定評価書の作成サービスを行っております。

※本ページは2015年1月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。
また、概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。